【映像制作の現場から】日本映画撮影監督協会(JSC)の長沼六男撮影監督らが語る、Genesisによる映画「沈まぬ太陽」の長期海外ロケ現場

2009.11.17 UP

映画『沈まぬ太陽』撮影風景

映画『沈まぬ太陽』の撮影に使用したGenesis

映画『沈まぬ太陽』の撮影に使用したGenesis

<<壮大なスケールで描いた大作 Genesisで長期海外ロケを敢行>>

 映画化不可能とまで云われたテーマを壮大なスケールで描いた『沈まぬ太陽』であるが、撮影技術の面でも大作に相応しい陣容であったようだ。基本はフィルム撮影であるがケニア・ナイロビなど海外でのロケにおいて活躍したのはデジタルシネマキャメラの中でも特筆すべきパナビジョンGenesisであった。

 ソニーと米パナビジョン社との共同開発、スーパー35mm映画フィルムとほぼ同じイメージサイズを持ち、運用コストも高額なGenesisを長期に渡り用いたのは日本初のケースとなる。長年におよぶ夢の企画を見事スクリーンへと結実させた長沼六男(JSC)撮影監督を始めとする撮影部・照明部・ポストプロダクションの諸氏に話を聞いた。


<<海外ロケ撮影の難しさを乗り越えるデジタルシネマカメラ>>

 「海外ロケはセキュリティーの問題でフィルムはかなり難しい。台本では回想シーンなので、ならばそれをあえてデジタルでやったら面白い事が出来るかなと思った」と語るのは長沼氏。

 物理的な事情に加え、クリエイティブな意味でもGenesisを積極的に活用した。

 実際の運用ではどんな特色が発揮できたのか。照明の中須岳士氏によると「4〜500の感度が主流になってきているフィルムと同じ状態が保てる。
 デイライトに設定しても同様の感度が得られる事が一番大きい」と感じたそうである。HD作品だと、ベースにいてトランシーバーで指示を出さざるをえなく、照明技師の負担が多い。Genesisの場合は、キャメラの横にいてフィルムの様にライティングを進められる。


<<高温多湿に耐える信頼性 日本初の長期使用で無事故を実現>>

 撮影チーフを務めた中坊武文氏は「今までより暗部も出るので、ASA640でも行けるという印象。フィルムでいう3倍位でハイ側も収まるのでメーターで間違いなく出来ると思う」とも。フィルム職人らしい言葉だ。
 Genesisは開発の経緯からソニー・シネアルタの兄弟にあたるわけだが、フィルムキャメラに馴染んだ人が直ぐに使える様に外観も中身もそうなっている。
 
 さらに三和映材社の渡辺純一氏は一番の利点として夏のサバンナや多湿なタイの気候にも耐えた信頼性を上げる。「日本初の長期使用、しかし事故も無く使えたのは何者にも変え難い。海外では既に多数の作品で使われており、そこで培われたものを活かし改良を重ねている」

 階調については「出過ぎる位」とはポスト・プロダクションを担当した東京現像所の福島宥行氏。
 上下5絞りのラチチュードであったという。現場ではパナソニックの液晶モニターでラッシュ用・バックアップ用P2カード収録も可能なHPM 110が持ち込まれた。

 しかしながら「マスモニではないからビジコン感覚。監督もキャメラの側にいたから、みんなモニターを当てにはしていなかった(長沼氏)」らしい。
 撮影セカンドの村松順氏はフォーカス送りの際「フィルムとの感覚的な違いはなかった」そうだ。ただ「フィルムだとしつこく目で見て合わせるが、液晶ファインダーだといくら見ても解らないのでピーキングを上げてモニターで確認した」と話す。

 長沼氏は「フィルムとGenesisの混在での使用はこれからあまりないと思うが、全編Genesisだと扱いも良く現場は楽になる。今後どうしてもデジタルでという話になれば、ジェネシスを使いたい」と感想を述べる。

 仕上げであるが最終的にはフィルムレコーディングで成される為、収録はLog(云わばデジタル“ネガ”の生成)で行われるのが望ましくGenesis搭載のPANA LogはCineon変換にも高い親和性を持つのだが、今回の作品ではあくまでリニア(HDCAM-SRテープ上の※云わば“ポジ”)を活かしその見え方を再現することが重視(因みにフィルムパートはフィルム仕上げ)された。

映画『沈まぬ太陽』の撮影に使用したGenesis

映画『沈まぬ太陽』の撮影に使用したGenesis

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