私が見た『NAB SHOW 2009』における技術動向(その2)カメラ関連技術

2009.5.29 UP

前号ではNAB2009の全体状況について書いた。本号では例年NABの華になっているテレビカメラの動向について見てみたい。


 今年のNABにおけるテレビカメラの傾向としては、順調に普及が進んでいるテープレスカメラが定着したこととそれらに連携するレコーダ・プレイヤーなど周辺機器が揃ってきたこと、これからHD化を進めようとしているユーザー向けの低価格モデルが増えたこと、進展するデジタルシネマなど向けの高画質、高機能モデルも数多く、さらに既存設備と接合しやすいデジタルトライアクシャルとか次世代インターフェース3G(3Gbps)への対応、またファイル化が進む制作系とリンクし効率性、運用性の向上など、話題は多かった。

 ソニーは記録メディアにプロフェッショナルディスク(BD)を使う最上位モデルXDCAM HD422シリーズのラインアップを拡大した。24Pへの対応、スロー&クイックモーション機能もつけ、従来の報道用だけでなく映画やCM制作用などと利用範囲を広げてきた。連携するレコーダおよびフィールドステーションも出し、IT技術と親和性が高くMXFファイルで記録・再生し、ネットワークやサーバーとつなぎ効率的な制作環境を構築できる。またHDCAM-SRに高画質と高機能性を両立させたカムコーダを出展した。従来モデルの性能・機能に加え、60P記録も可能とし、オプションでRGB4:4:4、1~60までのバリアブルフレームレートも可能とし、ネガフイルム並の広いダイナミックレンジと階調性を実現した。ドラマ、映画、CMなど高品質コンテンツ制作用をターゲットに狙っている。

 パナソニックはNAB登場5年目となるP2シリーズに普及価格帯モデルを出してきた。1/3型220万画素3MOSを搭載、P2カードスロットを2基装備し、重さ3.6Kgで軽量コンパクトだ。高圧縮のH.264イントラを採用し、フルHD映像を10bit、4:2:2で記録し、MXFファイルで転送できる。映画利用も想定し24p対応、12~60fpsのバリアブルフレームレートで、フイルムライクな階調モードも選択できる。P2カードは1.2Gbpsと高速化した上で価格も下げた。さらに新デジタル映像処理LSIにより消費電力を従来モデルの半分以下にした。またP2HD制作環境を一層高めるためのP2ライターも出したが、P2カードスロット5基と大容量HDDを備え、5型カラーLCDパネルパネル操作でプレビューや素材データの高速コピーができる。LAN経由で外部PC等からアクセス、高速転送も可能で、バッテリー駆動でロケ現場でも使いやすい。

 池上通信機と東芝は、共同開発し着実に実績を上げているテープレスソリューションGFシリーズを出展した。テープレスカメラGFCAMは2/3型3CCDを搭載しフルHD/SDに対応する。小型・ポータブルのフラッシュメモリーレコーダGFSTATIONは128GBの大容量メモリーを内蔵し、VTRライクな操作性とテープレスとしての機能性を活かしファイル転送可能となっている。GFパックの素材確認が手軽にできるプレイヤー、ファイルでの制作環境に対応するコンテンツマネージメントツールも登場させた。また池上は新開発の高密度CCDと映像プロセスで高精細度、高SN比を実現した上位機種と、マルチフォーマット対応でスタジオカメラにも遜色ない画質を確保し、ヘリコプターにも搭載可能な小型・軽量の低価格モデルも出展した。

 JVCは高画質と高コストパフォーマンスを実現したテープレスカムコーダProHDシリーズを出展した。ショルダーモデルは1/3型3CCD搭載、レンズ交換可能、重量は3.4Kgで、記録メディアにSDHCメモリーカードとSXSメディアを装備し、“QuickTime”(アップル)と“MP4”(マイクロソフト)にも対応する。1.4Kgと軽量のハンドヘルド型は、1/4型3CCD採用し、SDHCカードスロット2基搭載している。さらに従来モデルより大幅に小型化した4Kデジタルシネマシネマカメラも出展した。

 日立国際電気は世界的なHDTV化に応え、コストパフォーマンスの良い各種カメラを出展した。主力のSKシリーズは、220万画素、2/3型CCDと14bit A/D、ワンチップDSPを搭載し、高解像度、高S/Nを達成した。以前からカメラ部と記録・伝送部を利用法にあわせ組み合わせ可能なドッカブル構成モデルを出しているが、今回はP2HDレコーダを実装したP2カムコーダも出展していた。

 日本企業以外でカメラ分野で高い実績を持つグラスバレーは、リムーバブルディスクと半導体メモリーを搭載したテープレスカムコーダ“infinity DMC”に加え、機能アップしスポーツ中継などにも使える3倍速HDカメラや2倍速マルチフォーマットカメラなども並べていた。

 放送用、業務用にコストパフォーマンスを重視したカメラが目立った一方で、デジタルシネマなど一層の高画質を目指したモデル、特殊条件下で使うような様々なスペックのカメラも数多く出展されていた。

 科学分野で実績を持つ“VISION RESEARCH”(米)は、デジタルシネマ用に最上位機、高解像度モデル、フルHDモデル、SD用中解像度モデルなど多種多彩ハイスピードカメラを出展した。撮像素子に高解像度CMOSを搭載し、撮影コマ数は機種により数コマ~数千コマと多様である。それぞれのカメラで撮影したスロー映像を50型PDPに再生し見せていたが、映画、放送番組、CM、ゲーム用など様々な分野で使われている。

 “I-Movix”(ベルギー)は、今回もCMOS搭載のフォトロン製カメラとフジノン製レンズをアッセンブルした超高速度カメラ“SprintCam”を出展した。12bitフルHDで最大1000fpsまでの高速度撮影ができ、内蔵32GBメモリーにより約10秒間のスロー映像が再生できる。北京オリンピックではSDバージョンを使ったそうだが、来年のバンクーバーオリンピックでは今回出展のHD版の使用が期待されるところだ。

 例年デジタルシネマで派手なプレゼンテーションで話題になる“RED Digital”は今回出展せず、隣接ホテルでユーザーやメディア向けにセミナーを開催し、高解像度と周辺部の歪の少ないレンズセットを発表していた。同社の主力カメラRED oneはアライアンスを組んでいる多くの社のブースでプレゼンに使われており、同社のビジネス戦略が効を奏しているとの感を持った。

 シネカメラの老舗アリフレックスは、フイルムカメラライクのデジタルシネマカメラD21を出展した。35mmフイルムサイズ相当の単板CMOS(画素数2880×2160)を搭載し、PLマウントで多彩な35mm用レンズが使えアナモレンズと組み合わせシネマスコープフォーマットの撮影も可能だ。階調やダイナミックレンジもフイルム並みの特性をもち、ファインダーはシネカメラと同じ光学式で鮮明で歪のない画像を見ることができるなど、多くの特徴を持っている。

 計測技研はカメラ用レコーダとして、非圧縮の小型ディスクレコーダを出展した。カメラに搭載できるように小型、軽量化し、4.3型液晶パネルでモニタリングもできる。今回、アリフレックスD21、ソニーCineAlta、グラスバレーのInfinity、RED Oneなどに実装され各社ブースで展示されていた。容量1.5TBで記録時間長はフルHD、10bit、4:2:2の場合で約80分になる。      


映像技術ジャーナリスト 石田武久


写真1:評判のニューモデル“XDCAM HD422”(ソニー)
写真2:小型コンパクト、安価になった“P2HD”カメラ(パナソニック)
写真3:欧米企業で健闘のテーレスカムコーダ“Infinity DMC”(Grass Valley)
写真4:常連となった高速度カメラ“SprintCam”(I-Movix)
写真5:大勢の参加者を集めた“RED one” セミナー情景(RED Digital)

#interbee2019

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