【映像制作の現場から】公開講座「ハリウッド版・鉄腕アトムとアニメーションの世界」レポート

2009.11.26 UP

映画『ATOM』より
公開講座の会場となった白鴎大学

公開講座の会場となった白鴎大学

熱気のあふれる講演風景

熱気のあふれる講演風景

<<総制作費50億円 映画『ATOM』の制作秘話が明らかに>>

 手塚治虫の「鉄腕アトム」を、香港とロサンゼルスなどに拠点を置く先端的な映画制作集団「IMAGI社」がCGアニメ化した『ATOM』(総製作費:約50億円)が、10月10日全国一斉に公開され、観客を感動の渦に巻き込んでいる。 
 
 『ATOM』公開に先駆けて、10月6日、栃木県小山市白鴎大学(はくおう)にて「ハリウッド版・鉄腕アトムとアニメーションの世界」と題する公開講座が開催された。
 白鴎大学「メディアコース」及び「総合研究所メディアセンター」開設記念と、「ハリウッド版・アニメ映画“アトム”」の世界公開を機に企画され、角川映画・角川エンタテインメントの協力を得て実現したもので、講演ゲストに手塚眞氏(ヴィジュアリスト、映画『ATOM』監修・宣伝プロデューサー)、ケン・ツムラ氏(IMAGI社上級副社長)、ティム・チャン氏(IMGI社アニメーション・ディレクター)を迎え、菅野嘉則氏(白鴎大学講師)の進行とロレイン・ラインボールドさん(白鴎大学准教授)の通訳により、2部構成で進められた。

※写真クレジット:©2009 Imagi Crystal Limited 
Original Manga © Tezuka Productions Co., Ltd


<<第1部「メイキング・オブ・映画“アトム”」>>

 初めに映画『ATOM』の日本語吹替版による予告編(約3分)を上映。次にティム氏がIMAGI社の概要を紹介。
 「フランシス・カオ氏が2000年に香港に設立した大手アニメーション・スタジオです。アジアをベースに質が高く面白そうな原作権を探して購入し、世界を対象にした観点からそのストーリーを開発し、香港とハリウッドのスタッフが双方の文化と最新技術を取り入れながら映画を制作しています。『ATOM』は我々にとって2番目のCGアニメ映画で、制作プロセス全体は2年かかりました。現在は、日本原作のアニメ『ガッチャマン』の制作が進行中です」
 
 続いて、1950年代から現在までのアトムのキャラクターの変化や、キャラクターデザイン、アートワーク、造形、照明といった3Dアニメーションの制作プロセス、最新技術を駆使した映画制作手法などが、映像を交えて紹介された。
 「新生アトムは漫画より少し高めに年齢を設定し、洋服も着せました。アトムのキャラクターを失わないように、グラフィックに作っていくのが最も難しかったです。アートワークのアイディアはイサム・ノグチのデザインや葛飾北斎の作品からとりました。我々の大好きな科学者の手塚治虫氏を紹介しましょう。皆が尊敬している手塚治虫氏に、この映画の中にぜひ登場してもらいたかったんです」と話すティム氏。

 エレメントの詳細も説明された。皮膚や肌の質感、皮膚のシワ、髪の毛や髪型、頭の大きさ、目やまぶたの大きさや位置、まつげ、鼻や耳の穴、歯、指の爪、表情、話し方、声、洋服、ジェット・ブーツの飛ぶ動き、お尻のキャノン…。「映画になったらどういう風に見えるかということを、すべてのキャラクターについて何度もテストを重ねて細かく作っていきました」とティム氏。色を決めるだけでもそうしたテスト版は何百枚にもなるという。
 キャラクターに命が吹き込まれていくプロセスの話は非常に興味深かった。


<<第2部「パネルディスカッション」>>

 手塚眞氏、ケン・ツムラ氏、ティム・チャン氏を壇上に迎えて始まった。
 
 最初に、手塚治虫の「鉄腕アトム」誕生の経緯が語られた。
 手塚氏曰く、「原子力を平和利用する、そういう漫画として「アトム大使」の連載が1951年に始まりました。アトムという少年ロボットは脇役でした。次に彼を主人公にした連載が書かれます。題名は「鉄人アトム」。後に「鉄腕アトム」に変えられました。これが大人気を博し、瞬く間にアイドル的存在となって、ラジオやテレビ・ドラマが制作されました。そして1963年、モノクロのテレビ・アニメシリーズがスタートします。「鉄腕アトム」は、日本のテレビ・アニメの第1歩を記した記念碑的作品となりました。それから50年近く経ちますが、アトムの人気は衰えません。その秘密はキャラクターとストーリー、この二つの素晴らしさにあると思います」
 
 手塚氏は、日本人の感性にあわせて書かれた「鉄腕アトム」の物語が外国でも理解され、なぜこれほど人気があるのかというと、人であれば誰でも共感できる普遍的なテーマと世界中の人が納得できる普遍的な物語を含んでいるからで、映画『ATOM』は、映像は勿論、脚本、キャラクターの行動、セリフのひとつひとつに至るまで丁寧に作られているから感動をもたらすと評した。
 

<<文化の違いを考慮した表現に腐心>>

 「手塚プロダクションが協力的でしたから、チャレンジのし甲斐がありました。完成した映画を香港で上映中に、大人の男性が泣いているのを見ました。高い質と深い内容を持つ手塚治虫氏のストーリーが素晴らしいからこそ、大人も子供も心打たれるのだと思う。泣いている男性を見て私も感動しました」と話すケン氏。

 「手塚氏の3歳になる甥御さんも映画『ATOM』を見て号泣したという。でも、それを聞いた欧米人のスタッフは心配した。子供を泣かせる映画は良くない、と。映画の予告編は、<ぼくは死んだ>というところから始まる。それを見たアメリカ側のスタッフはNO!と言った。なんと不吉な、と。息子を失った教授が息子の代わりにロボットを作るが、亡くなった息子と違うことに耐えられなくなり、「出て行け」と言い放つ場面については、欧米の親たちから、親が子供を捨てる表現はきつ過ぎると批判が出た」

 「それを自発的に家を出るように変えたら、日本人側からは、家出になるから良くないと反論が…。といったように、映画を制作中にそれぞれの国が持つ文化の違いの存在を嫌というほど思い知らされたそうだ。手塚氏は言う。「文化の違いや文化の差を磨りあわせてどう表現するかというのは非常に微妙な問題でした。でも完成した映画はそれを巧く解決してくれています」
 

<<日本の漫画に子供が惹きつけられた理由>>

 「そもそも子供の漫画に悲劇を持ち込んだのは手塚治虫が最初だった。子供を子供扱いせずに、人間の生死の話も悲しい話も、難しい哲学的な問題を語ることもきちんと入れたからこそ、子供はその漫画に惹きつけられ、生涯忘れられないものとなった。それにより当初から日本の漫画は高いレベルで進んでいった」
 「欧米には、子供向けの漫画やアニメの中に、そうした文化はない。その意味で、この映画『ATOM』は、初めてそのことに挑戦した作品ともいえる。ケン氏は言う。「最初から最後まで涙を誘うわけではありませんよ。アクションもコメディもバランス良く入っている素晴らしい映画です」

 最後に客席との質疑応答が行われた。
 「かつての主題歌に“10万馬力”の語があった。そのこともイメージして作られたのでしょうか」の質問に、「元々のアトムは原子力エネルギーで動いていますから、当時の流行語のひとつで10万馬力と言ったのだと思います。今回のアトムは、IMGI社の素晴らしいアイディアによって全く新しい未来型エネルギーを使っていますから、10万馬力という語は相応しくないかもしれません」と手塚氏。
 
 「3Dはリアルを求めると言われました。その度が過ぎると、人間に似すぎて気持ち悪くなるという話を聞いたことがあります。そのバランスはどうお考えですか」の質問に、「最初はロボットのようにと考えていたのですが、それでは感情が出しにくいので、ロボットを意識せず、人間らしくしていきました。それによって演技も深くなってきたと思うし、皆さんが共感できるところも増えたのではないでしょうか」とケン氏。

 「手塚治虫さんの他の作品もCGにするお考えがありますか」の質問に、「そういう会話もしていますが、まずは『ATOM2』を作りたいと思っています」とケン氏。

 2時間半に及ぶ公開講座に参加して、鉄腕アトムの心の成長の旅がよりスケール・アップした映画『ATOM』は、アトムを忘れた大人たちも、アトムを知らない子供たちも、誰もが最高に楽しめる大傑作であることを実感した。 (取材・文=横堀朱美)

公開講座の会場となった白鴎大学

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熱気のあふれる講演風景

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